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東京地方裁判所 平成元年(ワ)5731号 判決

原告

X

右訴訟代理人弁護士

大森惠一

被告

Y1

右訴訟代理人弁護士

岡部琢郎

被告

Y2

Y3

右訴訟代理人弁護士

岩渕秀道

羽渕節子

被告

亡Z2訴訟承継人

Y4

Y5

Y6

右三名訴訟代理人弁護士

小島将利

浦田数利

被告

Y7

Y8

Y9

Y10

主文

一  別紙財産目録記載一ないし三の各土地、四の賃借権、八及び九の各建物、一二及び一三の各出資、一四ないし一九の各株式はAの相続財産であることを確認する。

二  別紙財産目録記載二〇の建物及び二一の出資はBの相続財産であることを確認する。

三  みなし相続財産目録記載一の土地及び二ないし八の各使用借権の価額がAの相続財産とみなされることの確認請求に係る訴えをいずれも却下する。

四  みなし相続財産目録記載九の使用借権の価額がBの相続財産とみなされることの確認請求に係る訴えを却下する。

五  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の、その余を被告らの各負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  別紙財産目録(以下「財産目録」という)記載一ないし三、五及び六の各土地、四の賃借権、八ないし一〇の各建物、一二及び一三の各出資、一四ないし一九の各株式はA(以下「A」という)の相続財産であることを確認する。

二1  主位的請求

被告Y8(以下「被告Y8」という)、同Y9(以下「被告Y9」という)及び同Y10(以下右三名を併せて「被告Y8ら」という)各自に対するAの遺産分割時における財産目録記載七の土地及び一一の建物の価額相当額の代償請求権がAの相続財産であることを確認する。

2  第一次予備的請求

被告Y8らは原告に対し、連帯して三〇〇万円及びこれに対する昭和六二年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第二次予備的請求

被告Y8らは原告に対し、それぞれ一〇〇万円及びこれに対する平成二年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  財産目録記載二〇の建物及び二一の出資がB(以下「B」という)の相続財産であることを確認する。

四  別紙みなし相続財産目録(以下「みなし相続財産目録」という)記載一の土地及び二ないし八の各使用借権の価額がAの相続財産とみなされることを確認する。

五  みなし相続財産目録記載九の使用借権の価額がBの相続財産とみなされることを確認する。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等(証拠によるものは適宜該当証拠を掲記する)

1  A(明治二五年七月二五日生)及びB(明治三四年五月二五日生)の死亡並びにその相続関係等(別紙相続人関係図参照)

(一) Aは昭和五一年一二月二一日死亡し、その妻B、右両名の子である被告Y1(大正九年八月二一日生。以下「被告Y1」という)、同Y2(大正一二年六月五日生。以下「被告Y2」という)、Z1(大正一三年一二月二八日生。以下「Z1」という)、被告Y3(大正一五年二月二三日生。以下「被告Y3という)、Z2(昭和二年一一月一日生。以下「Z2」という)、原告(昭和五年四月一四日生)及び被告Y7(昭和九年一月二日生。以下「被告Y7」という)がAを相続した。

(二) Bは昭和五八年五月一〇日死亡し、同人をその子である被告Y1、同Y2、Z1、被告Y3、Z2、原告及び被告Y7が相続した。

(三) Z1は昭和五九年八月七日死亡し、同人をその妻であるZ3(以下「Z3」という)及び右両名の子である被告Y8らが相続した。

Z3は昭和六二年九月二二日死亡し、同人をその子である被告Y8らが相続した。

(四) Z2は平成二年二月二六日死亡し、同人をその妻である被告Y4(以下「被告Y4」という)、右両名の子である同Y5及び同Y6(以下右三名を併せて「被告Y4ら」という)が相続した。

2  財産目録記載一ないし三、五及び六の各土地、七ないし一一の各建物並びに四の賃借権について

(一) 財産目録記載一の土地及び八の建物について

(1) 財産目録記載一の土地及び同土地上の同目録記載八の建物については、それぞれ昭和二五年一〇月一二日受付で鈴木吉尭からAに対する同日付売買を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲一及び八の各1、2)。

(2) 財産目録記載八の建物にはZ1がその家族と共に居住していた。

(二) 財産目録記載二及び三の各土地、九及び二〇の各建物並びにみなし相続財産目録記載一の土地について

(1) 財産目録記載二及び三の各土地については、それぞれ昭和二二年二月二七日受付で鈴木嘉四郎からAに対する同日付売買を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲二及び三の各1、2)。

(2) みなし相続財産目録記載一の土地には昭和二二年二月二七日受付で鈴木嘉四郎からAに対する同日付売買を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲一三の1、2)。

(3) 財産目録記載二の土地上の同目録記載二〇の建物については、Bの所有名義で昭和三四年八月三一日付所有権保存登記手続が経由されている(甲一二の1)。

右建物の使用状況は、一階の一部及び二階部分にZ2がその家族と共に居住し、その余の一階部分は賃貸に供されている(被告Y2、同Y4各本人)。

(4) 財産目録記載三の土地上の同目録記載九の建物については、Aの所有名義で昭和四五年一二月一五日新築した旨家屋(補充)課税台帳に登録されているが、所有権保存登記手続は経由されていない(甲九)。

右建物の一階には被告Y7がその家族と共に居住し、その余の二階部分は賃貸に供されている(被告Y7本人)。

(三) 財産目録記載四の賃借権及び一〇の建物について

(1) 財産目録記載四の賃借権については、昭和二六年四月一日付けで貸主を板谷商船株式会社(以下「板谷商船」という)、借主をA、保証人を被告Y1とし、期間を昭和二六年四月一日から昭和四六年三月三一日まで、賃料を月額三二八〇円(ただし、一坪につき三三円五〇銭と都税一五四円)とする賃貸借契約書が存在する(以下「本件賃貸借契約」という。甲二一)。

右借地は右賃貸借契約締結当時板谷商船が所有していたが、平成元年四月二六日株式会社長谷工コーポレーション(以下「株式会社長谷工」という)に売却され、以後右賃貸借契約の賃貸人の地位は同会社が引き継いでいる(甲四)。

(2) 右借地上の財産目録記載一〇の建物には、被告Y1のために昭和二八年二月五日付所有権保存登記手続が経由されている(甲一〇)。

右建物は建築後Aとその家族及び被告Y1とその家族が共に居住しており、A及びBの死後は被告Y1とその家族及び被告Y2が居住している(以下財産目録記載一〇の建物を「新自宅」ということがある)。

(四) 財産目録記載五の土地について

東京都港区芝三田五丁目二三六番二四の土地(旧東京都港区芝三田松阪町三六番二四の土地、宅地、地積102.13平方メートル。以下「二三六番二四の土地」という)については、昭和二三年五月五日受付で杉本の婦(以下「杉本」という)から被告Y1に対する財産目録記載五の土地の同日付売買を原因とする所有権移転登記手続が経由され、更に昭和三七年一二月一一日受付で同被告から櫻内勇助(以下「櫻内」という)に対する二三六番二四の土地との同月一〇日付交換を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲五の1、乙A三九)。

財産目録記載五の土地については、昭和三七年一二月一一日受付で櫻内から被告Y1に対する同月一〇日付交換を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲五の2、3)。

財産目録記載五の土地上には、被告Y1が昭和四八年に建物(共同住宅)を建築して所有し、右建物を賃貸に供している(被告Y2、同Y1各本人)。

(五) 財産目録記載六の土地について

財産目録記載六の土地については、昭和二三年一二月七日受付で杉本から被告Y1に対する同日付売買を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲六の1、2)。

右土地上のみなし相続財産目録記載四の建物(昭和五二年ころ取り壊されている。以下「旧自宅」ということがある)には、昭和三七年一月二三日受付で牧田静(以下「牧田」という)からAへの同日二二日付売買を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲一四)。

右建物には財産目録記載一〇の建物が建築されるまで、Aがその家族と共に居住していた。

被告Y3は昭和五二年ころ右建物を取り壊し、右土地上に五階建建物を建築して所有している(被告Y3本人)。

(六) 財産目録記載七の土地及び一一の建物について

(1) 財産目録記載七の土地には、昭和二七年一一月五日受付で、杉本からZ1に対する同年一〇月一六日付売買を原因とする持分五分の三の、杉本から高桑宣郎に対する同日付売買を原因とする持分五分の二の各所有権移転登記手続が(甲七の1及び2)、右土地上の同目録記載一一の建物には昭和二七年一一月五日受付で、杉本合名会社からZ1に対する同年一〇月一六日付売買を原因とする持分五分の三の、同会社から高桑宣郎に対する同日付売買を原因とする持分五分の二の各所有権移転登記手続がそれぞれ経由されている(甲一一)。

(2) 財産目録記載七の土地及び一一の建物に対するZ1の各持分五分の三には、それぞれ同人の死亡後である昭和六〇年二月二二日受付で同人からZ3に対する昭和五九年八月七日付相続を原因とする所有権移転登記手続が経由されている(甲七の1、2)。

Z3は昭和六二年七月一六日右土地及び建物をグレイス恒産株式会社(以下「グレイス恒産」という)に売却して右売却代金を受領し、同日その旨の所有権移転登記手続を経由した(甲七の2)。

3  財産目録記載一二及び一三の各出資並びに一四ないし一六の各株式について

(一) Aは昭和二三年一一月一五日ころ有限会社A商店を設立し(代表取締役には設立時から昭和三一年九月二〇日までAが、その後被告Y1が就任。以下「(有)A商店」という)、右に際し財産目録記載一二の出資を行った(甲一五ないし一七)。

(二) Aは昭和五一年一二月二一日当時、財産目録記載一三の出資並びに一四及び一六の各株式を所有していた。同目録記載一五の株式は同目録記載一四の株式の果実である。

4  財産目録記載一七ないし一九の各株式について

(一) Aは昭和五一年一二月一日当時、大東京火災海上保険株式会社(以下「大東京火災」という)の株式四万四八八〇株を所有していた。

大東京火災は昭和五一年一二月一日増資を行い、A所有の右株式につき有償増資二万二四四〇株及び無償増資(資本準備金の資本組入れによる無償新株発行)四四八八株の増資がされた。

昭和五一年一二月二一日当時、A名義の大東京火災の株式は七万一八〇八株存在し、同人の死亡後である昭和五三年三月末日、右株式のうち二〇〇〇株は処分された。その余の株式が財産目録記載一七の株式である。

(二) 大東京火災は昭和五四年一二月一日及び昭和五九年一二月一日に増資を行った。財産目録記載一七の株式につき昭和五四年の増資に際し有償割当二万〇九四二株及び無償割当三四九〇株の増資がされ(同目録記載一八の株式)、更に昭和五九年の増資に際し一七及び一八の各株式につき合計四万二四〇八株の増資がされ、右四万二四〇八株の株式のうち四万二〇〇〇株は、Aの相続人らによる一部遺産分割協議に基づき処分されて同人の相続財産から離脱し、残余の株式である株券未発行の四〇八株が財産目録記載一九の株式である。

5  財産目録記載二〇の建物及び二一の出資について

Bは昭和五八年五月一〇日当時、財産目録記載二〇の建物及び二一の出資を所有していた。

Bは右二〇の建物の所有につき財産目録記載二の土地を無償で使用してきた。

6  原告及び被告らの間には、財産目録記載一ないし三、五及び六の各土地、四の賃借権、八、九及び一〇の各建物、一二及び一三の各出資、一四ないし一九の各株式、Aの遺産分割時における同目録記載七の土地及び一一の建物の持分五分の三の価額相当額の代償請求権が同人の相続財産であること、同目録記載二〇の建物及び二一の出資がBの相続財産であることにつき争いがあり、また、みなし相続財産目録記載一の土地及び二ないし八の各使用借権がAの相続財産とみなされること、同目録記載九の使用借権がBの相続財産とみなされることにつき争いがある。

二  当事者の主張

1  財産目録記載一の土地及び八の建物について

(一) 原告

Aは昭和二五年一〇月一二日鈴木吉尭から財産目録記載一の土地及び八の建物を買い受けた。

(二) 被告Y1

被告Y1は昭和二五年五月五日鈴木吉尭から財産目録記載一の土地及び八の建物を代金合計一一万五〇〇〇円で買い受けた。

(三) 被告Y2、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実はいずれも認める。

2  財産目録記載二及び三の各土地並びに九の建物について

(一) 原告

(1) Aは昭和二二年二月二七日、鈴木嘉四郎から財産目録記載二及び三の各土地を買い受けた。

(2) Aは昭和四五年一二月ころ、財産目録記載三の土地上に同目録記載九の建物を建築した。

(二) 被告Y1

(1) 被告Y1は昭和二二年二月二七日、鈴木嘉四郎から財産目録記載二及び三の各土地及びみなし相続財産目録記載一の土地併せて一〇〇坪(登記簿上九一坪)を一坪当たり三〇〇円として代金合計約三万円で買い受けた。

(2) 昭和四五年一二月ころ、財産目録記載三の土地上に同目録記載九の建物を建築したのは被告Y1である。

被告Y1は昭和四五年ころ建築業森億との間で代金三一一万円を支払って財産目録記載九の建物の建築請負契約を締結し、右建物はそのころ完成した。

(三) 被告Y2、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実はいずれも認める。

3  財産目録記載四の賃借権及び一〇の建物について

(一) 原告

(1) Aは昭和二六年板谷商船との間で本件賃貸借契約を締結し、財産目録記載四の賃借権を取得した。

(2) Aは昭和二八年二月ころ右借地上に財産目録記載一〇の建物を建築した。

(二) 被告Y1

(1) 本件賃貸借契約を締結して賃借権を取得したのは被告Y1である。

被告Y1は板谷商船に対し権利金四万円及び賃料を支払い、また、昭和四六年に板谷商船から更新料二〇〇万円を請求されて、昭和五〇年一〇月から分割して合計二〇二万〇七〇〇円の更新料を支払うなどしている。

(2) 財産目録記載一〇の建物を建築してこれを取得したのは被告Y1である。被告Y1は昭和二七年七月一一日同被告名義で建築確認を取得してそのころ財産目録記載一〇の建物を建築し、また、昭和二八年三月一七日増築のための建築確認も取得してそのころ右建物を増築した。なお、右建物の建築及び増築に際し、被告Y1は敷地の貸主である板谷商船からその都度承諾を得ている。

(三) 被告Y2、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実はいずれも認める。

4  財産目録記載五の土地について

(一) 原告

Aは二三六番二四の土地を所有していたところ、昭和三七年一二月一〇日櫻内との間で同土地と財産目録記載五の土地を交換し、同土地を取得した。

(二) 被告Y1

被告Y1は昭和二三年五月五日杉本から二三六番二四の土地を代金九五〇〇円で買い受け、更に、昭和三七年一二月一〇日櫻内との間で同土地と財産目録記載五の土地を交換し、同土地を取得した。

(三) 被告Y2、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実は認める。

5  財産目録記載六の土地について

(一) 原告

Aは昭和二三年一二月七日杉本から財産目録記載六の土地を買い受けた。

(二) 被告Y1

被告Y1は昭和二二年九月八日杉本から財産目録記載六の土地を代金九五〇〇円で買い受けた。

(三) 被告Y2、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実は認める。

6  財産目録記載七の土地及び一一の建物について

(一) 原告

(1) Aは昭和二七年一〇月一六日杉本から財産目録記載七の土地の持分五分の三を、杉本合名会社から同目録記載一一の建物の持分五分の三をそれぞれ買い受けた。

(2) Z3はZ1の死亡後である昭和六〇年二月二二日、財産目録記載七の土地及び一一の建物の各持分につき相続を原因とする所有権持分移転登記手続を経由した上、昭和六二年七月一六日Aのその余の相続人らに無断で右土地及び建物の各持分をグレイス恒産に四億二〇〇〇万円以上の売買代金で売却し、その旨所有権移転登記手続を了し、右売却代金を取得した。

右土地及び建物の各持分はAの相続財産であるところ、原告が被告らを相手としてその旨主張していた東京家庭裁判所での調停(以下「本件調停」という)係属中に、Z3が登記名義を有することを奇貨として右土地及び建物の各持分を売却したのであるから、同人は右各持分がAの相続財産であるか少なくともその疑いがあることを認識していたというべきであり、右認識の下に行われた右売却行為は不法行為を構成するというべきである。

(3) 財産目録記載七の土地及び一一の建物の昭和六二年七月一六日ころの時価相当額は四億二〇〇〇万円を下らない。

原告のAの相続財産に対する法定相続分は七分の一であるから、右不法行為により原告の被った損害若しくはZ3に対する不当利得返還請求権は六〇〇〇万円を下らない。

また、被告Y8らはZ3を相続し、同被告らのZ3に対する法定相続分は各自三分の一であるから、同被告らの原告に返還すべき不当利得相当額は各自二〇〇〇万円を下らない。

(4) よって、原告は、主位的には、Aの遺産分割時における財産目録記載七の土地及び一一の建物の各持分価額相当額の代償請求権がAの相続財産であることの確認を求め、予備的には、被告Y8ら各自に対し、第一次的には不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、六〇〇〇万円の内金三〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六二年七月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、第二次的には不当利得返還請求権に基づき、それぞれ二〇〇〇万円の内金一〇〇万円及びこれに対する右予備的請求をした日である平成二年九月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告Y1

(1) 右(一)の原告主張事実は、(2)のうちZ3による土地、建物売却の事実は認めるが、その余は否認し争う。

(2) 財産目録記載七の土地及び一一の建物の持分各五分の三を杉本及び杉本合名会社から買い受けたのは、被告Y1である。

被告Y1は右土地及び建物の各持分五分の三をZ1名義で買い受け、その余の各持分五分の二はZ4(被告Y1の妻。以下「Z4」という)のいとこの高桑益太郎の子であり、当時中学生ないし高校生であって資力のないことが明らかな高桑宣郎名義で買い受けたものであるが、これは右土地及び建物を被告Y1及び高桑益太郎が、それぞれZ1と高桑宣郎の名義を使用して共同で買い受けたことを示すものである。

(三) 被告Y2及び同Y3

右(一)の原告主張事実は、(2)のうちZ3による土地、建物売却の事実は認めるが、その余は知らない。

(四) 被告Y4ら

右(一)の原告主張事実はいずれも知らない。

(五) 被告Y7

右(一)の原告主張事実はいずれも認める。

(六) 被告Y8ら

(1) 右(一)の原告主張事実は、(2)のうちZ3による土地、建物売却の事実は認めるが、その余は否認し争う。

(2) 財産目録記載七の土地及び一一の建物の持分各五分の三を杉本及び杉本合名会社から買い受けたのは、Z1である。

7  財産目録記載一二及び一三の各出資並びに一四ないし一六の各株式について

(一) 原告

(1)争いのない事実等記載3に同じ。

したがって、財産目録記載一二及び一三の各出資並びに一四ないし一六の各株式はAの相続財産である。

(2) (二)の被告Y1主張(1)の事実は否認する。

(二) 被告Y1

(1) 抗弁―財産目録記載一二の出資について

Aは昭和二八年六月一日Z4に対し、財産目録記載一二の出資の権利を一〇万円で売り渡した。

(2) 財産目録記載一三の出資及び一四ないし一六の各株式について

右(一)の原告主張事実は、(1)のうち財産目録記載一三の出資及び一四ないし一六の各株式についてはいずれも認める。

(三) 被告Y2、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)(1)の原告主張事実はいずれも認める。

8  財産目録記載一七ないし一九の各株式について

(一) 原告

争いのない事実等記載4に同じ。

したがって、財産目録記載一七ないし一九の各株式はいずれもAの相続財産である。

(二) 被告Y1、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実はいずれも認める。

(三) 被告Y2

(1) 被告Y2は、大東京火災の株式につき、昭和五一年一二月一日Aから株主割当増資による有償及び無償株式二万六九二八株(有償株式二万二四四〇株、無償株式四四八八株)を、昭和五四年一二月一日Bから株主割当増資による有償及び無償株式二万四四三二株(有償株式二万〇九四二株、無償株式三四九〇株)をそれぞれそのころ買い受けた。

(2) 仮に、Bに右株式の譲渡権限がないとしても、被告Y2は右株式の株券を占有し保管していたBから、同人が権利者であると信じてこれを買い受けたものであり、また、そう信じたことについては過失がないから、同被告は右株式を善意取得した。

(3) したがって、財産目録記載一七の株式のうち二万六九二八株、同目録記載一八の株式二万四四三二株及び同目録記載一九の株式のうち二二二株(四〇八株の九万四二四〇分の五万一三六〇相当)はAの相続財産ではなく、被告Y2の固有財産である。

9  財産目録記載二〇の建物及び二一の出資について

(一) 原告

Bは昭和五八年五月一〇日当時、財産目録記載二〇の建物及び二一の出資を所有していた。

(二) 被告Y1

右(一)の原告主張事実はいずれも争う。

(三) 被告Y2、同Y3、同Y4ら、同Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実はいずれも認める。

10  みなし相続財産目録記載の各財産につて

(一) 原告

(1) Aは被告Y1に対し生計の資本として、①昭和五〇年四月ころみなし相続財産目録記載一の土地を贈与し、また、②同目録記載二及び三の各使用借権(ただし、右三の使用借権は被告Y2と準共有)を設定した。

(2) Aは被告Y2に対し、生計の資本としてみなし相続財産目録記載三の使用借権を設定した(ただし、被告Y1と準共有)。

(3) Aは被告Y3に対し、生計の資本としてみなし相続財産目録記載四及び五の各使用借権を設定した。

(4) Aは被告Y7に対し、生計の資本としてみなし相続財産目録記載六の使用借権を設定した。

(5) AはZ1に対し、生計の資本としてみなし相続財産目録記載七の使用借権を設定した。

(6) AはBに対し、生計の資本としてみなし相続財産目録記載八の使用借権を設定した。

(7) BはZ2に対し、生計の資本としてみなし相続財産目録記載九の使用借権を設定した。

(二) 被告Y1

右(一)の原告主張事実はいずれも否認する。

みなし相続財産目録記載一の土地は昭和二二年二月二七日鈴木嘉四郎から被告Y1が買い受けた。

(三) 被告Y2

右(一)の原告主張事実はいずれも認める。

(四) 被告Y3

右(一)の原告主張事実は、(1)は認め、その余はいずれも否認する。

右(3)については、被告Y3の昭和五一年ころからの財産目録記載六の土地の使用はAの死亡後のことである。

(五) 被告Y4ら

右(一)の原告主張事実は、(1)ないし(6)は認め、(7)は否認する。

Z2は昭和三三年Bから財産目録記載二〇の建物を賃料月額二万円で賃借し、Bが死亡する昭和五八年まで同人に対し賃料を支払っていた。

(六) 被告Y7及び同Y8ら

右(一)の原告主張事実は、(1)の②、(2)及び(6)は認め、その余はいずれも否認する。

被告Y7は昭和四五年一二月Aから財産目録記載九の建物を賃料月額六万円で賃借した。

第三  裁判所の判断

一  A家の財産形成過程とこれに対する各当事者らの関与等について

1  前記認定事実に証拠(甲一五ないし一九、乙A一ないし六、八ないし二一、六三、六四、七二ないし七六、七八ないし八三、九二、C一、D一、E一、原告、被告Y1、同Y2、同Y3、同Y7、同Y4及び同Y9各本人)並びに弁論の全趣旨によれば、A家の経歴、財産形成過程及び経済活動状況等として次の事実が認められ、被告Y1の供述中右認定に反する部分はその余の前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) A家では、Aが戦前から保険外務員として稼働していたが、戦後も大東京火災に保険外務員として勤務する一方、昭和二〇年早々ころから被告Y1を中心にして、旧自宅であったみなし相続財産目録記載四の目的建物で闇物資取扱業及び金物販売業が営まれ、右闇物資の取引で相当の収益を上げ、また、昭和二一年ころからは右収益を元手に事業拡大が図られ、財産目録記載八の建物においてA電器ラジオ店の屋号で電気器具販売業が手がけられるようになり、昭和二二年四月には日本ビクター株式会社(以下「ビクター」という)と電気器具販売契約を締結して取引が開始された。

その後、右営業は被告Y1の働きを支柱にして順調に発展し、Aは昭和二三年一一月一五日旧自宅を本店所在地として、金物販売部門(B、被告Y1及び同Y3が担当していた。また、Z2も昭和三四年一〇月ころ結婚して独立するまでは右金物販売業に従事していた)と電気器具販売部門(Z1が担当していた)を統合して(有)A商店を設立した。代表取締役は昭和三一年までAが務め、後に被告Y1が就任している。この間の収益は、Aの支配下で被告Y1が管理していた。

なお、昭和二六年ころ、東京都金物協同組合への加入手続が行われたが、右組合への出資、協力会器物部運用積立金等は右述の事業の収益から支払われた。

(二) 被告Y1(昭和二一年結婚)は保険院簡易保険局に勤務しながら、昭和一六年に中央大学法学部(夜間部)を卒業した後、昭和一八年に右保険局を退官して出征し、昭和一九年一二月一日に負傷のため除隊となって帰ってきた。その後、同被告は(有)A商店が設立されるまでの間、保険外務員として勤務するAを助けて金物及び電気器具販売の経営を担当し、名実共に右経営の統括責任者として稼働した。同被告は昭二一年ころ同被告がかつて勤務していたことをつてに、財団法人郵政弘済会との間で店舗開設の契約を締結し、東京地方簡易保険局内に売店を開設する(昭和四六年閉鎖。その後昭和二八年ころには東京郵政局内と東京中央郵便局内にも売店を開設している)など営業規模を拡大し、前記ビクターとの販売契約締結の交渉も行い、更に、昭和二七年ころからの日本コロムビア株式会社との間の特約店契約等の締結に際してもその交渉を行い、その後も右契約を継続した。

被告Y1は昭和三一年以降Aに代わり(有)A商店の代表取締役を務めているが、右以前においても、昭和二〇年代の法人成前の同商店の税金の支払や税務署との交渉等を行い、税務当局から納税上の問題を指摘されたのを契機に、個人商店としての金物及び電気器具販売業を廃し、新たに会社組織として(有)A商店を設立する旨昭和二三年一一月一五日付廃業届を提出し、同商店の定款をAの指示を受けて作成するなどした。

ちなみに、(有)A商店では、被告Y1は「社長」、Z1は「専務」、被告Y3は「常務」と呼称されており、Aが「社長」と呼称されたことはなかった。なお、後にも認定するとおり、同商店は、昭和四一年に被告Y3が右金物販売部門を引き継いで(有)A商店から独立し株式会社A金物店(以下「(株)A金物店」という)を設立し、また、昭和四四年に電気器具販売部門をZ1が有限会社A無線電器(以下「(有)A無線電器」という)として法人化して独立したため、被告Y1がレコード販売部門のみを営業するようになった。

(三) 昭和二〇年代の被告Y1以外のA家男子の稼働状況をみると、Z1は昭和二〇年五月に徴兵され、敗戦後抑留されていたが、昭和二二年に除隊となって戻ってきた後、昭和二五年一〇月ころから被告Y1の統括の下に(有)A商店の電気器具販売部門の業務を担当したが、昭和三〇年に結婚して独立の生計を持つまでは特に給料の支給を受けることなく稼働した。なお、同人は右除隊後旧自宅を出て、財産目録記載八の建物に昭和四五年まで居住しているが、右居住建物について家賃等の使用対価を支払ったことはない。

(四) 被告Y3は昭和二〇年九月に除隊となった後、同年一〇月から前記金物販売部門に従事していたが、同被告も昭和三二年に結婚して独立の生計を持つまでは特に給料の支給を受けることはなかった。ところで、Aは(有)A商店の電気器具販売部門(そのころは被告Y1の責任下にあった)の経営が悪化したことから、右経営悪化が金物販売部門へ波及することを危惧し、同商店から金物販売業の経営を分離させることを図り、その方針の下に昭和四一年、被告Y3が右金物販売部門を(有)A商店から切り離し(株)A金物店として独立させることとした。右分離独立後、同被告は同会社からの収入を自己の所得として生計を立てるようになり、昭和四八年ころAとその家族及び被告Y1とその家族が新自宅である財産目録記載一〇の建物に転居した後も、みなし相続財産目録記載四の目的建物において(株)A金物店の経営を任されてきた。

(五) 戦後に大学を卒業したZ2及び被告Y7の経歴及び稼働状況をみると、Z2はAや被告Y1ら兄達の稼働により得られた収益から学費や生活費の援助を受け、法政大学を卒業後昭和三五年に結婚したが、同年一〇月まで(有)A商店の金物販売部門に従事し、その後財産目録記載二〇の建物に居住してA'の屋号で食料品店を営んだ。右金物販売部門に従事中は、Z1らと同様特に給料の支給を受けることなく稼働した。

被告Y7(昭和四〇年に結婚)もZ2と同様学費の援助を得て明治大学を卒業し、昭和三二年三月から昭和四五年まで(有)A商店において電気器具販売部門に従事した。同被告も特に給料の支給を受けることなく、前記のとおり被告Y1の手により東京中央郵便局内に設けられた同商店の売店に勤務した。被告Y7はその後昭和四五年から財産目録記載九の建物で軽食喫茶店を経営し、その収入を同被告の所得とするなどして生計を立ててきたが、昭和四七、八年ころからはAから保険外務員としての代理店の経営の仕事を引き継いでこれに従事している。

(六) 被告Y2は長女として、Bを助けて家計をやり繰りし、特にA名義の各不動産で賃貸に供している物件からの賃料を集金し、A又はBに交付するなどの賃料管理事務を任され、また、右賃料収入からA及びB名義の各不動産の税金の納付手続を行うなどの事務も任されており、その他Bが保管していた金庫の鍵を同人の死後引き継いで保管するなどして、他家へ嫁ぐことなくA及びBの財産管理を行っている。

なお、後記各不動産の登記済権利証書などはすべて(有)A商店の事務所兼応接間(新・旧自宅共)に置かれた金庫の中に保管され、Bが右金庫の鍵を管理していた。

(七) 以上に対し、原告は共立薬科専門学校卒業後、昭和三一年(二六歳)にA家から相当の嫁入仕度をととのえて貰い、結婚して独立したが、原告が特にA家の財産形成に関与したという形跡はない。

(八) 登記名義のいかんを問わず、後記各不動産の購入代金は、前記経緯で営まれた(有)A商店の収入及びAの保険外務員としての給料・歩合の収入から捻出されたものであり、そのようにして取得された各不動産を更に賃貸に供し、その賃料収入はAの家族の生活費(被告Y1をはじめとするA家の男子ら及び原告がそれぞれ結婚して独立した後はA、B及び被告Y2の生活費)及び各不動産に課せられる公租公課の支払に充てられている。

2  以上認定の事実に基づき考察すると、A家では、Aの指示ないし指揮の下に、昭和二〇年ころから長男である被告Y1を経営の統括責任者として、Z1、被告Y3、Z2及び被告Y7が順次参加して協力し、右兄弟一丸となって前記認定の業務に従事し、右各人が結婚して独立するまでの間は特に給料の支給を受けることなく稼働し、その結果、昭和二〇年代にA家の財産の基礎的部分が形成されたが、その成果たる同商店の収益は基本的にはすべてAの支配下に置かれたものと認められ、すると特段の事情の認められない限り、右収益は実質的にAに帰属するものと推認するのが合理的というべきである。

なお、以下の個別認定から窺われるように、A家の財産形成に寄与した被告Y1の功績は相当なものがあり、この点は遺産分割協議に当たり十分考慮されるべきである。

二  そこで、財産目録記載の各財産の相続財産性について個別に検討する。

1  財産目録記載一ないし三、五ないし七の各土地並びに八、一〇、一一及び二〇の各建物(以下併せて「本件各不動産」という)について

(一) 不動産の登記簿上の所有名義人は反証のない限り、右登記に係る不動産を所有するものと推定すべきである(最高裁昭和三四年一月八日第一小法廷判決・民集一三巻一号一頁参照)。すると、本件各不動産のうち、A(右五ないし七の各土地、一〇、一一及び二〇の各建物を除くその余の本件各不動産)又はB(右二〇の建物)を登記簿上の所有名義人とする不動産は特段の反証のない限り同人らが各該当不動産を所有するものと推定すべきであり、同人らのそれぞれの相続財産として処すべきものとなる。

したがって、本件各不動産のうち登記簿上A又はB名義の各不動産については右各名義人の所有権の推定を覆すに足りる反証の有無を検討することとなる。また、同人ら以外の者の名義の不動産については、これがAの所有であることの証明の成否は結局右登記名義人の所有であることの推定を覆した上で、更にAが取得したと認めるに足りる立証があるかの手順で検討することとなる。

(二) A又はB名義の各不動産について

(1) 財産目録記載一の土地及び八の建物について

ア 前記認定によれば、財産目録記載一の土地及び八の建物の登記はいずれもA死亡当時同人の所有名義であり、したがって同人の所有不動産であると推定される。

これに対し、被告Y1は右一の土地及び八の建物を自らが代金を出捐し、買い受け所有する旨主張し、Aの相続財産性を争う。しかし、右主張を認めるに足りる客観的裏付けはない上に、前記認定に証拠(甲一及び八の各1及び2、乙A一〇、二二ないし二六、九一、被告Y2、同Y1各本人)によれば、Aは昭和二〇年以前から右建物を賃借しこれを倉庫として利用していたが、昭和二一年ころから右建物で被告Y1を経営責任者として電気器具販売業を営むようになり、昭和二五年五月五日右各不動産を代金合計一一万五〇〇〇円で買い受け、A名義で登記手続を了したこと、右代金は右電気器具販売による営業利益から出捐され、契約締結日に三万円、同年六月五日に三万円、同年七月一〇日に三万円、同年八月二九日に二万五〇〇〇円がそれぞれ支払われて完済されたこと、その後も右建物はA経営下の営業店舗として使用され、同人死亡当時は、金物販売部門が昭和四一年に(株)A金物店として、電気器具販売部門が昭和四四年に(有)A無線電気としてそれぞれ独立していたため、被告Y1が(有)A商店としてレコード店を営む店舗として使用されていたことの各事実が認められ、以上の各不動産の取得経緯、取得前後の使用状況、その間に登記名義に変更がないこと等に前記認定のA家の形成財産が最終的にAの支配下に帰属するものとされていたことを総合して考察すれば、前記推定を覆すには足りず、財産目録記載一の土地及び八の建物はAの所有に属するものと認めるのが相当である。

イ したがって、財産目録記載一の土地及び八の建物についての原告の請求は理由がある。

(2) 財産目録記載二及び三の各土地について

ア 前記認定によれば、財産目録記載二及び三の各土地の登記はいずれもA死亡当時同人の所有名義であり、したがって同人の所有不動産であると推定される。

これに対し、被告Y1は、右各土地を買い受け所有する旨主張し、Aの相続財産性を争う。しかし、右主張を認めるに足りる客観的裏付けはない上、前記認定に証拠(甲二、三、一二及び一三の各1及び2、二〇、二三、乙A九一、D一の1ないし7、二の1ないし4、三の1及び2、四、被告Y2、同Y1、同Y3、同Y4各本人)によれば、Aは財産目録記載二及び三の各土地を更地で買い受け、A名義で登記手続を了し、右二の土地の一部を秋元米吉に賃貸して右賃料を取得していたこと、Aは昭和三四年ころ、右土地上に同目録記載二〇の建物をZ2の住居及び賃貸に供する目的で建築し(B名義で保存登記)、Z2に対し右建物二階部分を月二万円の約定で賃貸した上(なお、Z2は昭和三五年から昭和四七年ころまで賃料をY2に交付し、また昭和五〇年二月ころから昭和五八年五月ころまでの間も賃料を減額しつつもY2に交付して支払っていたが、Bの死後その支払をやめている)、その余の一階部分を八百屋及び魚屋に賃貸し、右賃料をZ2に徴収させてY2に交付させていたこと、同人はZ2から受領した右賃料収入をAに、同人の死後はBに交付してA、B及びY2の生活費等に充てていたが、Bの死後はA及びB名義の各不動産の公租公課支払に充て、残余はY2の生活費に充てていること、Z2が右建物一階でA'の屋号で食料品店を経営していたこと(Z2の死後閉店)の各事実が認められ、以上認定の各不動産の取得経緯、取得後の使用状況、その間登記名義に変更がないこと等のいずれに照らしても、前記推定を覆すに足りる事情はなく、財産目録記載二及び三の各土地はAの所有に属するものと認めるのが相当である。

イ したがって、財産目録記載二及び三の各土地についての原告の請求は理由がある。

(3) 財産目録記載二〇の建物について

ア 前記認定によれば、財産目録記載二〇の建物の登記はB死亡当時同人の所有名義であり、したがって、同人の所有不動産であると推定され、また、右建物が同人の相続財産に属することは被告Y1を除くその余の当事者間においては争いはない。

被告Y1は右建物を自ら建築した旨主張するけれども、右主張は右建物がBの所有に属することになった経緯の一過程を述べるものと解されるのであって、同被告の寄与分の検討の上では考慮に値する事情であるとしても、右建物所有権の帰属が検討されている本訴においては理由のない論拠というべきである。

イ したがって、財産目録記載二〇の建物についての原告の主張は理由がある。

(三) A、B以外の者の名義の各不動産について

(1) 財産目録記載五の土地について

ア 原告は、財産目録記載五の土地をAが買い受け所有した旨主張するが、、A死亡当時右土地の登記は被告Y1名義であり、同被告の所有不動産と推定されるところである。

イ そこで検討するのに、前記認定のとおり、A家の財産形成は法人成の前後を含め(有)A商店の経営を基盤としており、右経営はA家の男子らの働きに支えられ、同商店の収益は最終的にAの支配下にあったものである。また、証拠(被告Y2、同Y1、同Y3各本人)によれば、Aは財産目録記載五の土地の一部を昭和二四、五年ころまで畑として使用していたほか、右土地上に建物(Aがカナリヤなどを飼育していた鳥小屋並びに(有)A商店の営む金物、電気器具販売部門及びレコード販売部門の使用していた倉庫)を建てて使用していること等Aの所有財産であることを裏付けるかのごとき事実が認められる。

ウ しかし、前記認定のとおり財産目録記載五の土地の登記はA死亡当時被告Y1の名義であり、このことから同土地は同被告が所有するものと推定されるところ、前記認定に証拠(甲五の1ないし3、乙A三九ないし四一、八八、九〇、被告Y2、同Y1、同Y3各本人)によれば、後に右土地の交換対象となる二三六番二四の土地には、杉本から被告Y1に対する昭和二三年五月五日受付同日付売買を原因とする所有権移転登記手続が経由されており、右売買代金九五〇〇円は同被告が支払ったこと、ところが右土地上には櫻内所有の建物があり、他方、財産目録記載五の土地は昭和二四、五年ころまでAが前記認定の利用形態で使用していたことから、同被告は昭和三七年一二月一〇日、二三六番二四の土地を櫻内所有の財産目録記載五の土地と交換し、右土地を取得して同被告名義でその旨の登記手続を了したものであること、同被告は昭和四八年二月一二日に右土地上に建築代金三三〇〇万円を投じて新たに建物(共同住宅)を建築して所有したが、右建築に当たりAの許可を求めたことはなく、他の兄弟も右建築に何ら異議を唱えることはなかったこと、右建物の一部屋は被告Y2が無償で使用しているが、その余の部分は被告Y1が賃貸し、賃料収入を取得していること、右土地及び建物の公租公課は同被告の負担で同被告名義で納付されていることの各事実が認められる。

右認定の土地の取得経緯、登記名義が昭和三七年以来一貫して被告Y1であり、Aが右登記名義を取得したことは一度もないこと等を総合して考察すれば、前記イに認定の諸事実や昭和二三年当時の被告Y1(当時三七歳)の経済力が明確ではないこと(ただし、同被告は昭和二三年ころまでにはA家の営業の中心となって働き、相応の収入を個人的に貯えており、右程度の購入資金を有し、かつ、Aも同被告においてある程度の不動産取得をすることを容認していたものと推認される(同被告本人))のみでは右土地の登記の推定力を覆すには足りないというべきであり、他に右土地をAの相続財産であると認めるに足りる証拠もない。

エ したがって、その余について判断するまでもなく、財産目録記載五の土地についての原告の請求は理由がなく、失当というべきである。

(2) 財産目録記載六の土地について

ア 原告はAが財産目録記載六の土地を買い受けた旨主張するが、A死亡当時右土地の登記は被告Y1名義であり、同被告の所有不動産と推定されるところである。

イ そこで検討するのに、A家の財産が基本的にAの支配下に置かれる形で形成されたことは前記のとおりである。また、財産目録記載六の土地上のみなし相続財産目録記載四の目的建物(旧自宅)の使用状況等について、証拠(甲一四、一八、一九、乙A八、八五、被告Y2、同Y1、同Y3及び同Y4各本人)によれば、Aは昭和一九年ころから右建物を杉浦能婦子(以下「杉浦」という)から賃借し、一階を金物販売業の店舗として、二階をA及びその家族の住居として使用するとともに、昭和二〇年一〇月ころから右店舗においてAの指揮下に被告Y1を中心にして闇物資の取扱いの営業も行っていたこと、昭和二八年ころAとその家族及び被告Y1とその家族の新自宅(財産目録記載一〇の建物)への転居に伴い、Aは以後被告Y3に同所における金物販売部門の経営を任せ、右建物を使用させていたこと、昭和三七年にAは牧田から右建物を買い受けたこと(取得経緯は後記認定のとおり)、昭和五二年ころ被告Y3はB及び被告Y1をはじめ他の兄弟の了承を得てみなし相続財産目録記載四の目的建物を取り壊し、被告Y3の妻との共同名義で右土地上に五階建店舗兼倉庫居宅の建物(現在の(株)A金物店の店舗)を建築したこと、被告Y3は財産目録記載六の土地につき地代を支払っていないが、被告Y1をはじめとする他の兄弟はBの居住する部屋を建物内に設けることを条件に右建物の建築を許可したこと等Aの相続財産性を裏付けるかのごとき事実が認められる。

ウ しかし、前記認定のとおり、財産目録記載六の土地の登記はA死亡当時被告Y1名義であり、このことから同土地は同被告が所有するものと推定され、また、同被告は右土地を昭和二二年九月八日杉本から代金九五〇〇円で買い受けた旨供述し(同被告本人)、右に沿う売買契約書(乙A四二)が存在する上に、証拠(甲六の1及び2、乙A四二ないし四六、八四ないし八六、被告Y2、同Y1、同Y3、同Y4各本人)によれば、みなし相続財産目録記載四の目的建物は昭和二九年三月三〇日杉浦から牧田が買い受け新賃貸人となったため、昭和三一年七月ころ被告Y1が牧田を相手に東京地方裁判所に右建物の借地権不存在確認の訴えを提起し(第一審同被告勝訴)、昭和三七年一月二二日その控訴審(東京高等裁判所昭和三四年(ネ)第四〇号)において牧田がAに右建物を八〇万円で売却する旨の和解が成立したこと(なお、右建物については牧田がAを被告として明渡訴訟を提起し(東京地方裁判所昭和二九年(ワ)第一〇五七四号)、控訴審係属中(東京高等裁判所昭和三四年(ネ)第四七八号)であったが、右和解に際し右控訴の取下げを合意した)、右和解に際して作成された覚書に基づき被告Y1は牧田に対し右建物売買に関し更に七五万円を支払ったことの各事実が認められる。

右認定の被告Y1の財産目録記載六の土地を巡る権利主張、昭和二二年以来一貫して右土地の登記名義が被告Y1であり、Aが右登記名義を取得したことは一度もないこと等に前記認定を総合して考察すれば、前記イに認定の諸事実や当時の同被告の経済力が明確でないこと(この点については前記認定のとおり)をもって右土地の登記の推定力を覆すには足りず、他に右土地をAの相続財産であると認めるに足りる証拠もない。

エ したがって、その余について判断するまでもなく、財産目録記載六の土地についての原告の請求は理由がなく、失当というべきである。

(3) 財産目録記載一〇の建物について

ア 原告は財産目録記載一〇の建物はAが建築し、所有権を取得した旨主張するが、A死亡当時右土地の登記は被告Y1名義であり、同被告の所有不動産と推定されるところである。

イ そこで検討するのに、証拠(甲二一、二二の1及び2、二三、二四の1ないし6、被告Y2及び同Y1各本人)によれば、財産目録記載一〇の建物の敷地の利用権である同目録記載四の賃借権については、Aが昭和二六年に板谷商船から賃借したこと(後記認定のとおり)、Aが右建物建築に際し昭和二八年二月ころから五月ころにかけて檜など材木等の資材の買付けを行うなどしていること、建築後の右建物にはAとその家族(B、原告、被告Y2及び被告Y7)並びに被告Y1とその家族(Z4とその子ら)が居住し、A及びBの死後は、被告Y1とその家族及び同Y2が居住していること等Aの相続財産性を裏付けるかのごとき事実が認められる。

ウ しかし、証拠(甲四、乙A二九の1ないし4、三〇、三一の1ないし3、三二ないし三八、八七、被告Y2及び同Y1各本人)によれば、被告Y1は財産目録記載一〇の建物の建築に当たり、昭和二七年七月八日付けで港区長に対し設計審査申請書(三〇坪以下)を提出し、同月一日付けで建築確認を取得し、そのころ板谷商船から右建築の承諾を取得したこと、その後、同被告は右建物を約一〇坪増築するため昭和二八年三月一七日付建築確認申請を行い、板谷商船からも承諾を取得したこと、同年二月同被告は住宅金融公庫から右建物を担保にして建築費用を借り入れたこと、右建物の公租公課は同被告の負担で同被告名義で納付されていることの各事実が認められ、以上認定の右建物建築経緯等に右建物の登記名義は昭和二七年以来一貫して被告Y1であり、Aが右登記名義を取得したことは一度もなかったこと等を併せ考察すれば、前記イに認定の諸事実(同被告の経済力については前記認定のとおり)をもって右建物の登記の推定力を覆すには足りず、他に右建物をAの相続財産であると認めるに足りる証拠もない。

エ したがって、財産目録記載一〇の建物についての原告の請求は理由がなく、失当というべきである。

(4) 財産目録記載七の土地及び一一の建物について

ア 原告は財産目録記載七の土地及び一一の建物の持分各五分の三はAが買い受けた旨主張するが、A死亡当時右土地の登記はZ1名義であり、Z1の所有不動産と推定されるところである。

イ そこで検討するのに、証拠(甲七及び一一の各1及び2、乙A四七ないし六二、六九ないし七一、九四ないし九六、被告Y2、同Y1及び同Y9各本人)によれば、財産目録記載七の土地(ただし持分五分の三)については杉本からZ1に対する昭和二七年一一月五日受付で同年一〇月一六日付売買を原因とする所有権移転登記手続が、右土地上の同目録記載一一の建物(ただし持ち分五分の三)については杉本合名会社からZ1に対する同日付売買を原因とする所有権移転登記手続がそれぞれ経由されており、同年一一月五日にA家から杉本に対し九五〇〇円、杉本合名会社に対し一万三八七五円がそれぞれ支払われていたこと、Z1は高桑宣郎(以下「高桑」という)と共に昭和四二年、財産目録記載一一の建物の賃借人ら三名を相手として東京地方裁判所に建物明渡訴訟を提起し、訴訟係属中右賃借人ら三名はZ1及び高桑を債権者として賃料を供託し、その後和解により右建物をZ1らに対し明け渡したこと、右建物の賃貸借契約存続中は高桑が賃料を取得し、被告Y1が右土地建物の税金納付手続を取っていたこと、Z1は右建物の一部を同人の経営する(有)A無線電器の事務所として使用していたことの各事実が認められ、以上認定の右土地及び建物の取得経緯、使用状況及び訴訟経緯等に、右土地及び建物の各登記名義はそれぞれその五分の三につき昭和二七年から昭和五九年にZ3が右各不動産の相続登記手続を了するまで、一貫してZ1であり、その間Aが右登記名義を取得したことは一度もなかったこと等を併せ考察すれば、右各登記の推定力を覆すに足りる事情は見い出し難く、他に右土地及び建物(ただし持分五分の三)をAの相続財産と認めるに足りる証拠はない。

なお、財産目録記載七の土地及び一一の建物には、Z1の死亡後同人からZ3に対する昭和五九年八月七日付相続を原因とする各所有権移転登記手続が経由され、Z3は昭和六二年七月一六日右各不動産をグレイス恒産に売却し、右売却代金を受領したことは当事者間に争いがないところ、右売却の経緯に関し、証拠(被告Y2、同Y1各本人)によれば、本件調停係属中、被告Y1はZ3から右土地建物を売却したいとの申出を受け、同人が金銭を必要としている様子をみて売却を了承し、被告Y2から右各不動産の権利証書の交付を受けてZ3に交付し、同人が売却するに任せたことの各事実が認められるが、右の事実は調停係属中であったことや夫たるZ1を亡くしたZ3の立場を考慮すると、前記認定を左右するには足りないというべきである。

ウ したがって、その余について判断するまでもなく、財産目録記載七の土地及び一一の建物についての原告の請求は理由なく、失当というべきである。

2  財産目録記載九の建物(未登記)について

(一) 財産目録記載九の建物は、前記認定のとおりA所有の同目録記載三の土地上に建築されたものであるが、A名義で昭和四五年一二月一五日新築した旨家屋(補充)課税台帳に登録されているのみで、未登記建物である。

そこで検討するのに、前記認定に証拠(甲九、乙A二九1ないし4、三〇、三一1ないし3、三二ないし三八、被告Y2、同Y1、同Y7各本人)によれば、Aは財産目録記載三の土地を更地で買い受け、右土地上に賃貸目的で同目録記載九の建物を建築したこと、右建物には被告Y7が昭和四五年から居住するとともに一階で軽食喫茶店を経営していたこと(現在は閉店)、二階は第三者(高橋某)に賃貸していること、賃料はZ2が徴収して被告Y2に交付し、Y2が最終的にA又はBに交付してその生活費等に当てていたことの各事実が認められ、以上認定の建物建築及び課税台帳への登録の経緯並びに使用状況等に前記認定を総合して考察すれば、財産目録記載九の建物はAの所有に属するものと認めるのが相当というべきである。

(二) 被告Y1は同被告が代金を出捐して財産目録記載九の建物を建築した旨供述し、証拠(乙A六五ないし六八及び被告Y1本人)によれば、被告Y1は右建築に当たり建築業森億に第一回内金として昭和四五年三月二一日に一五〇万円を、同年四月一二日に八〇万円、同年七月一一日に五〇万円、同年一〇月一九日に三一万円を支払ったことが認められるが、建築代金の出捐が当然に建築建物の所有権の帰属を決定するものではないし、財産目録記載一〇の建物については前記認定のとおり同被告名義で登記手続を了しているところ、右九の建物について同様の処理を行うことを妨げる合理的事情も見い出し難いところであり、すると、前記認定事実の下では、右代金の出捐をもって右建物がAの相続財産であるとの判断を左右するには足りないものというべきである。

(三) したがって、財産目録記載九の建物についての原告の請求は理由がある。

3  不動産を除く財産目録記載の各財産について

(一) 財産目録記載四の賃借権について

(1) 前記認定に証拠(甲四、一〇、二一、二二の1及び2、二三、二四の1ないし6、乙A二九の1ないし4、三〇、三一の1ないし3、三二ないし三八、A八七、被告Y2、同Y1各本人)によれば、財産目録記載四の賃借権については、昭和二六年四月一日付けで貸主を板谷商船、借主をA、保証人を被告Y1と期間を昭和二六年四月一日から昭和四六年三月三一日まで、賃料を月額三二八〇円とする本件賃貸借契約が存在するところ、右賃貸借契約書の賃借人名義の記載及び押印はAが行ったもの(その他賃借人の住所及び連帯保証人欄は被告Y1が記載)であること、昭和二六年度及び昭和二七年度、昭和四二、四三年度の賃料の領収書、昭和四六年の更新料二〇〇万円の領収書及び昭和五〇年一〇月三一日付け更新料五万円の受領書はいずれもA家宛であること、少なくとも昭和五〇年六月から昭和五一年三月までは被告Y1がBに賃料分の金員を交付し、右をBが板谷商船に対して地代として支払うなどしており、昭和五〇年代初期の時点では板谷商船に地代を支払っていたのはBであること、その後、板谷商船から手続の煩瑣さを解消するため銀行振込みを要請され、被告Y1が銀行振込みで地代を支払っていることが認められる。

(2) 以上認定の本件賃貸借契約締結の経緯及びその後の賃貸借の事情等に前記認定のA家の財産形成の特殊性を併せ考察すれば、被告Y1に地代支払の管理がゆだねられ、実質的にも同被告がこれを負担していたことが窺われるとしても(右借地上に建物を所有している被告Y1が実質的に地代を負担し同被告名義で納付手続を取っているというにすぎない)、財産目録記載四の賃借権はAに属すると認めるのが相当というべきである。

(3) したがって、財産目録記載四の賃借権についての原告の請求は理由がある。

(二) 財産目録記載一二及び一三の各出資並びに一四ないし一六の各株式について

(1) 前記認定によれば、財産目録記載一三の出資及び一四ないし一六の各株式についての原告の請求は理由がある(なお、右一三の出資は、昭和五九年六月二六日にAから被告Y1への名義書換がされているが、同被告はAの相続財産と認めている)。

(2) 財産目録記載一二の出資について

ア Aが(有)A商店の設立に際し財産目録記載一二の出資を行ったことは当事者間に争いのない。

イ そこで、被告Y1の抗弁(AからZ4への売却)について検討するのに、証拠(乙A八九、被告Y2、同Y1及び同Y3各本人)によれば、昭和二八年六月一日にAはZ4に対し財産目録記載一二の出資一〇〇〇口を一〇万円で売却した旨の記載があり、被告Y1の供述中には右に沿う部分があるが、かえって、右記載を含む出資者名簿(乙A八九)は被告Y1が昭和六〇年初めころ本件調停中に作成したものであること、右出資者名簿には同被告を除く他の兄弟の出資についても同被告又はZ4に対し売却した旨の記載があるが、同被告又はZ4から右代金が支払われたことはないこと、昭和三一年までAは(有)A商店の代表取締役であり、出資を売却する必要性に乏しいことなどの各事実が認められ、これらを総合して考察すれば、同被告の抗弁事実を認めるには足りないというべきであるから、財産目録記載一二の出資はAの所有に属すると認めるのが相当である。

ウ したがって、財産目録記載一二の出資についての原告の請求は理由がある。

(三) 財産目録記載一七ないし一九の各株式について

(1) 大東京火災は昭和五一年一二月一日増資を行い、A所有に係る株式につき有償増資二万二四四〇株及び無償増資四八八株の増資がされたこと、Aは昭和五一年一二月二一日当時、同会社の株式一八〇八株を所有していたところ、同人の死亡後、右株式のうち二〇〇〇株は処分されて同人の相続財産から離脱し、残余の株式が財産目録記載一七の株式であること、大東京火災の昭和五四年一二月一日増資で、同目録記載一七の株式について同目録記載一八の株式増資がされ、更に昭和五九年一二月一日増資で、同目録記載一七及び一八の各株式につき合計四四〇八株の増資がされたところ、右四万二四〇八株の株式のうち四万二〇〇〇株はAの相続人らの一部遺産分割協議に基づき処分されて同人の相続財産から離脱し、財産目録記載一九の株式が残存していることの各事実は当事者間に争いがない。

(2) そこで、被告Y2の抗弁(A又はBからの買受け)について検討するのに、同被告は昭和五一年一一月一八日有償割当二万二四四〇株及び無償割当四四八八株をAから、また、昭和五四年一一月一六日有償割当二万〇九四二株及び無償割当三四九〇株をBからそれぞれそのころ分割して有償割当分相当金員を代金として支払って買い受けた旨主張し、同被告の供述中には右に沿う部分があるがその取得財源に合理性が見い出せず(華道及び茶道教室の教授料の収入を当てたという)、また、証拠(乙B一の1ないし34、二の1ないし31、被告Y2本人)によれば、いずれの株券についてもその名義はA及びBの死後一貫してあえてAのままにされ、名義書換えが行われていないのであり、同人の所有に属する株券を被告Y2が保管し管理していたとはいえ、そのことから直ちに有償増資額分で、無償増資分も含めて被告Y2が買い取ったとの事実までを認めることは困難というべきである。

かえって、同被告の主張どおりとすれば、昭和五九年一二月一日付増資に係る四万二〇〇〇株のうち半数は同被告の所有に帰属するものとなるはずであるにもかかわらず、Aの相続人らで平等に七等分に分割していること(当事者間で争いはない)をも併せ考察すれば、被告Y2は右株券をいずれもAの相続財産として管理してきたにすぎないと解するのが合理的であり、財産目録記載一七ないし一九の各株式はいずれもAの所有に属すると認めるのが相当というべきである。

(3) したがって、財産目録記載一七ないし一九の各株式についての原告の請求は理由がある。

(四) 財産目録記載二一の出資について

Bが昭和五八年五月一〇日当時、財産目録記載二一の出資を所有していたことは被告Y1を除くその余の当事者間に争いがなく、これに弁論の全趣旨を併せ考慮すれば、右出資についてはこれをBのものと認めるのが合理的である。

したがって、右出資についての原告の請求は理由がある。

三  いわゆるみなし相続財産確認請求の訴えについて

1  次に、原告は、みなし相続財産目録記載一の土地及び二ないし八の各使用借権についてAの、同目録記載九の使用借権についてはBのいわゆるみなし相続財産であることの確認を求めているので判断する。

民法九〇三条一項は、同条項所定のいわゆる特別受益の価額を相続開始時における相続財産とみなして、共同相続人の具体的相続分算定の基礎とすべき旨定めており、右にいういわゆるみなし相続財産という概念は、要するに遺産分割における具体的相続分算定のための観念的操作基準の一要件にすぎず、現に存在する具体的な財産を構成するものではない。

2 そして、共同相続人の具体的相続分が算定されるためには、各相続人の特別受益及び寄与分のすべての確定が不可欠である。したがって、特定の相続人の特別受益、すなわち、特定のみなし相続財産の存否だけを既判力をもって確定したとしても、直ちに右具体的相続分の算定が可能になるものではない。のみならず、民法九〇四条の二、家事審判法九条一項乙類九の二、家事審判規則一〇三条の三によれば、具体的相続分算定のための他の要件であり、特別受益と同じく法定相続分及び推定相続分の修正要素である寄与分については、当事者間の協議で定まらない場合には家庭裁判所の審判にゆだねられ、しかも、その審判は遺産分割と同時に行われるべきものとされているから、協議により寄与分の合意をみられた場合を除き、特別受益の有無・価額ないしみなし相続財産の存否が観念的に確定されたとしても、一般的にはその確定により遺産分割当事者間の法律上の紛争の解決を期することができるものともいい難い。

3 右のとおりであり、みなし相続財産であることの確認を求める原告の訴えは、裁判の目的である現在の法律関係の確定を求めるものではなく、確認訴訟の対象たる適格を欠く不適法なものであることが明らかである。

四  よって、原告の本訴請求は、請求の趣旨中一ないし三については以上に認定の限度で理由があるからこれを認容するが、その余は理由がないからこれを棄却し、また、同四、五の請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤村啓 裁判官髙橋光雄 裁判官堀内靖子)

別紙財産目録〈省略〉

別紙みなし相続財産目録〈省略〉

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